はじめに
猫が壁や家具の角に顔をスリスリとこすりつける姿を見たことはありませんか?この愛らしい行動には、実は猫ならではの重要な意味が隠されています。
多くの場合、顔こすりは猫の正常なコミュニケーション手段であり、縄張りを主張したり飼い主への愛情を示したりする行動です。しかし、頻度が異常に多かったり、皮膚に赤みや脱毛が見られたりする場合は、健康上の問題が隠れている可能性もあります。
この記事では、猫が顔をこする理由から、注意すべき症状、そして過剰な場合の対処法まで、獣医学的な視点から詳しく解説していきます。愛猫の行動を正しく理解して、健康で快適な生活をサポートしましょう。
猫が顔をこする理由は「マーキング」と「コミュニケーション」

フェロモンを使った縄張りマーキング
猫が壁や家具に顔をこすりつけるのは、フェロモンという化学物質を使った縄張りマーキング行動です。猫の顔周辺には特別な分泌腺があり、頬、顎、額、耳の下などからフェロモンが分泌されています。
このフェロモンは人間には感じ取れませんが、猫同士のコミュニケーションにおいて非常に重要な役割を果たしています。猫がこすりつけた場所には「ここは安全な場所」「ここは自分の縄張り」というメッセージが残され、猫自身に安心感を与えます。
特に飼い主の足や手に顔をこすりつけてくる場合は、親愛の表現です。猫は自分の匂いをあなたにつけることで「あなたは私の家族」と認識し、絆を深めようとしています。この行動の際に猫の脳内ではエンドルフィンという快楽物質も分泌されるため、猫にとっても心地よい行為なのです。
猫が特によく顔をこする場所とその意味
猫が顔をこすりつける場所には、それぞれ意味があります。
壁の角や家具の端を選ぶのは、目立つ場所にマーキングをすることで効率的に縄張りを主張できるためです。また、角は顔の分泌腺がしっかり当たりやすく、フェロモンを多く残せます。
新しい家具や来客の荷物に熱心に顔をこすりつけるのは、見慣れない匂いを自分の匂いに変えて安心したいという心理からです。環境の変化にストレスを感じたとき、猫は顔こすりの頻度を増やす傾向があります。引っ越しや模様替えの後に顔こすりが増えた場合、猫が新しい環境に慣れようと頑張っている証拠です。
多頭飼いの場合、他の猫がマーキングした場所をこすり返すこともあります。これは猫同士で情報交換をしたり、混ざった匂いを作ることで仲間意識を高めたりする行動です。
顔をこする行動が過剰な時の注意サイン

健康上の問題が隠れているケース
顔こすりが通常より頻繁になったり、執拗に同じ場所をこすり続けたりする場合は、健康上の問題が隠れている可能性があります。
皮膚炎やアレルギーによる痒みが原因の場合、猫は顔周辺を壁や床にこすりつけて痒みを和らげようとします。食物アレルギーやノミアレルギー、環境アレルギーなどでは、特に顔や頭に痒みが出やすく、季節に関係なく症状が続くこともあります。皮膚が赤くなっていたり、小さなかさぶたや脱毛が見られる場合は要注意です。
歯周病や口内炎による不快感も、過剰な顔こすりの原因となります。口の中に痛みや違和感があると、猫は顔全体をこすりつけて不快感を紛らわそうとします。口臭が強くなった、よだれが増えた、食欲が落ちたといった症状があれば、口腔内の病気を疑う必要があります。
耳ダニや外耳炎がある場合、猫は耳周辺を激しくこすりつけます。耳垢が増えたり、茶褐色の耳垢が出たり、頭を振る仕草が増えたりした場合は、耳の病気の可能性が高いでしょう。
目の病気(結膜炎など)でも、目の周りをこすりつける行動が見られます。目やにが増えたり、涙が多く出たり、目が充血している場合は、すぐに獣医師の診察を受けてください。
ストレスや不安のサインとしての過剰な顔こすり
猫は環境の変化やストレスを感じると、マーキング行動を増やして安心しようとします。引っ越し、新しいペットの導入、家具の配置換え、家族構成の変化などが引き金となることがあります。
ストレスによる顔こすりの特徴は、特定の場所を繰り返しこすり続けることです。皮膚に異常はないのに執拗にこすり続ける場合、心理的な問題の可能性を考える必要があります。重度の場合は、強迫性障害のような状態になることもあります。

過剰な顔こすりをやめさせる方法と対策

過剰な顔こすりに気づいたら、まず原因を特定することが最も重要です。以下の対策を順番に試してみましょう。
獣医師による健康チェック(最優先) 過剰な顔こすりを発見したら、まずは動物病院で健康診断を受けましょう。皮膚病、口腔内疾患、耳の病気、目の病気など、様々な健康問題が隠れている可能性があります。早期発見・早期治療が猫の苦痛を最小限に抑えます。
環境エンリッチメントの提供 猫が退屈やストレスを感じないよう、生活環境を充実させましょう。キャットタワーや爪とぎを複数設置し、猫が自由に縄張りマーキングできる環境を作ることで、壁や家具への執着を減らせます。高い場所や隠れられる場所を用意することも、猫の安心感につながります。
フェロモン製品の活用 フェリウェイなどの猫用フェロモン製品は、猫のストレス軽減に効果的です。
フェリウェイは猫のフェイシャルフェロモンF3を含んだ製品で、スプレータイプや拡散器タイプがあります。環境の変化や多頭飼育のストレス、動物病院への通院時などに使用すると、猫に安心感を与えられます。ストレス要因の除去 引っ越しや新しいペットの導入など、明らかなストレス要因がある場合は、できる限りその影響を軽減しましょう。新しい環境に慣れるまでは時間をかけて、猫のペースに合わせることが大切です。
→【ストレスケア(遊び編)】
→【ストレスケア(環境編)】
→【ストレスケア(多頭飼育編)】
適切な遊びと運動の提供 1日2回、それぞれ10〜15分程度の遊びの時間を設けましょう。狩猟本能を満たす遊びは、ストレス発散に非常に効果的です。
正常な顔こすりと異常な顔こすりの見分け方

愛猫の顔こすりが正常なのか、それとも健康上の問題があるのかを見分けることは、飼い主として重要なスキルです。
正常な顔こすりの特徴
正常な顔こすりには、以下のような特徴があります。
- タイミング:飼い主が帰宅したとき、食事の前後、新しい物が家に来たときなど、特定の状況で見られる
- 頻度:1日に数回程度で、執拗に繰り返すことはない
- 様子:リラックスした表情で、ゴロゴロと喉を鳴らしながら行うことが多い
- 皮膚の状態:顔周辺の皮膚に赤みや脱毛、かさぶたなどの異常が見られない
- 他の行動:食欲や活動量に変化がなく、通常通り元気に過ごしている
正常な顔こすりは、猫の自然なコミュニケーション手段であり、健康的な行動です。心配する必要はありません。
異常な顔こすりの特徴
以下のような症状が見られる場合は、何らかの問題がある可能性が高いため、すぐに獣医師に相談してください。
皮膚の異常
- 顔周辺の皮膚が赤く腫れている
- 脱毛している部分がある
- かさぶたや湿疹ができている
- 出血している箇所がある
行動の異常
- 同じ場所を何度も何度も執拗にこすり続ける
- 顔こすりの頻度が急に増えた(1日に何十回も行う)
- 顔をこすった後に顔を振ったり、両手で顔をこすったりする
- 落ち着きがなく、常に何かに顔をこすりつけようとする
併発症状
- 口臭が強くなった
- よだれが増えた、または血が混じっている
- 耳垢が増えた、耳から悪臭がする
- 目やにが増えた、涙が多く出る
- 食欲が低下した
- 体重が減少した
観察ポイントと記録の重要性
異常を早期発見するためには、日頃から愛猫の様子を観察し、記録することが大切です。顔こすりの頻度、こすりつける場所、時間帯、その時の猫の様子などをメモしておくと、獣医師の診察時に役立ちます。特に多頭飼いの場合は、どの猫がいつ、どこで顔こすりをしているかを把握することで、問題の早期発見につながります。
よくある質問
Q1: 猫が壁に顔をこするのは家具が汚れているから?
いいえ、汚れているからではありません。猫は顔周辺にあるフェロモン分泌腺から、自分の匂いを物にこすりつけて縄張りをマーキングしています。これは猫の本能的な行動であり、清潔・不潔は関係ありません。むしろ、新しくて猫の匂いがついていない物ほど、熱心にこすりつける傾向があります。
Q2: 顔をこする行動は去勢・避妊手術で減りますか?
顔をこする行動(フェイシャルマーキング)自体は、去勢・避妊手術の影響をほとんど受けません。この行動は性ホルモンとは関係なく、縄張り意識やコミュニケーションのために行われるためです。ただし、尿によるスプレー行動は去勢手術で減少することが多いです。顔こすりは猫の正常なコミュニケーション手段なので、去勢・避妊手術後も継続して見られます。
Q3: 顔をこする回数が急に増えた場合は病気ですか?
急に顔こすりの回数が増えた場合、いくつかの原因が考えられます。環境の変化(引っ越し、新しいペットの導入など)によるストレスが原因の場合もありますが、皮膚炎、アレルギー、歯周病、口内炎、耳ダニなどの健康問題が隠れている可能性もあります。特に皮膚の赤み、脱毛、かさぶた、食欲低下などの症状が伴う場合は、すぐに獣医師の診察を受けてください。
Q4: 新しい家具にばかり顔をこするのはなぜ?
新しい家具は、まだ猫の匂いがついていないため、猫は自分のフェロモンをつけて「これは安全なもの」「これは自分の縄張りの一部」というメッセージを残そうとします。見慣れない物や新しい物に対して、猫はまず安全性を確認し、自分の匂いをつけることで安心感を得ます。これは正常な適応行動であり、時間が経つにつれて頻度は減っていきます。
Q5: 多頭飼いで他の猫が顔をこすった場所をこすり返すのはなぜ?
多頭飼いの環境では、猫同士で情報交換をするために、他の猫がマーキングした場所をこすり返すことがあります。これは「あなたのメッセージを受け取りました」というコミュニケーションであり、また、混ざった匂いを作ることでグループとしての仲間意識を高めています。良好な関係にある猫同士でよく見られる行動で、社会性の表れです。ただし、過剰にこすり返す場合は、縄張り争いやストレスの可能性もあるため、猫たちの関係性をよく観察してください。
まとめ

猫が壁や家具に顔をこする行動は、基本的にはフェロモンを使った正常なマーキング行動です。縄張りの主張や飼い主への愛情表現として、猫にとって大切なコミュニケーション手段の一つです。
しかし、頻度が異常に多かったり、皮膚に赤みや脱毛などの異常が見られたりする場合は、皮膚炎、アレルギー、歯周病、口内炎、耳の病気などの健康問題が隠れている可能性があります。また、環境の変化によるストレスが原因で過剰な顔こすりが見られることもあります。
愛猫の顔こすり行動に異常を感じたら、まずは獣医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが最も重要です。日頃から猫の様子をよく観察し、正常な行動と異常な行動を見分けられるようになることで、愛猫の健康を守ることができます。猫の行動を正しく理解して、快適で安心できる環境を提供してあげましょう。
参考文献・参照記事
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参照しました。
フェロモンとマーキング行動に関する情報源
1. フェリウェイ公式サイト「猫のフェロモンとは何か?」
https://www.feliway.com/jp/Products/What-Are-Cat-Pheromones
猫のフェロモンの種類、フェイシャルフェロモンF3の役割、マーキング行動のメカニズムについて
2. GORON by ペット共生アドバンスネット「動物たちを知ろう 第5回 猫のマーキングとスプレー」
https://goron.co/archives/2437
猫のマーキング行動の種類と意義、対処法について
3. petandco株式会社「愛猫がフレーメン反応を起こす理由とメカニズム、マーキングとの関係性」
https://petand.co.jp/qrasippo/6864/
フェロモンの受容メカニズムとマーキング行動の関連性について
4. ペットケア情報サイト「猫が顔をこすりつける意味とは?フェロモン・マーキング・愛情表現の全解説」
https://www.petscare.com/jp/news/post/why-cats-rub-their-face
顔こすり行動の心理的意味と環境変化への適応について
皮膚疾患・アレルギーに関する情報源
5. サーカス動物病院「猫はストレスで過剰なグルーミングをすることがある?猫のストレスによる皮膚炎について解説」
https://circus-ah.com/wp/archives/1963
ストレスによる過剰グルーミングと皮膚炎について
6. KINS WITH 動物病院「猫の皮膚病の種類と原因、治療について」
https://kinswith-vet.com/journal/2205/
猫の皮膚病の種類、アレルギー性皮膚炎、感染症について
7. アイシア株式会社「猫のアレルギー症状と対策 ~アレルギーの原因、種類を解説~」
https://www.aixia.jp/know_enjoy/column/category/allergy/
食物アレルギー、ノミアレルギー、環境アレルギーの症状と診断方法
8. アース・ペット株式会社「原因別・猫の皮膚病大全」
https://www.earth-pet.co.jp/advice/advice211101
皮膚糸状菌症、ツメダニ、マラセチアなど各種皮膚疾患について
口腔内疾患に関する情報源
9. KINS WITH 動物病院「猫の口内炎。原因と症状、治療について画像で解説(犬猫の歯医者監修)」
https://kinswith-vet.com/journal/1460/
猫の口内炎の症状、原因、診断方法、治療法について
10. アニコム損保「猫のよだれがひどい…口臭が気になる、それ、猫の歯周病かも?!原因は?治療法と予防は?」
https://www.anicom-sompo.co.jp/nekonoshiori/787.html
歯周病の症状、進行段階、予防方法について
11. センターヴィル動物病院「猫の口内炎について」
https://www.centerville.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=24&Itemid=112
難治性口内炎の症状と顔をこする行動との関連について
フェロモン製品に関する情報源
12. フェリウェイ公式サイト(日本)
https://www.feliway.com/jp
フェロモン製品の使用方法と効果について
13. Amazon・楽天市場
フェリウェイスプレー、フェリウェイ専用拡散器の製品情報と使用者レビュー
※本記事の情報は2025年10月時点のものです。猫の健康に関する最新情報や個別の症状については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。



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