はじめに
愛猫が突然、全身をけいれんさせたり、意識を失って倒れたりする様子を目撃したら、どれほど動揺することでしょう。「このまま死んでしまうのでは」という恐怖で頭が真っ白になってしまう飼い主さんも少なくありません。
猫のてんかんは犬に比べて稀な病気ですが、決して起こらない病気ではありません。実際に、猫全体の約0.5%(200頭に1頭)がてんかんを発症するとされています。重要なのは、発作が起きた時に慌てずに適切な対応をとることです。
この記事では、猫のてんかんとはどのような病気なのか、発作の見分け方、応急対応の具体的な手順、そして治療や日常管理について詳しく解説します。正しい知識を身につけることで、愛猫の発作に冷静に対処し、獣医師への適切な情報提供ができるようになります。
猫のてんかんとは?症状と原因を知ろう

てんかんの基本的なメカニズム
てんかんとは、脳からの電気信号が急激に発生することで脳機能が乱れ、適切な情報の命令や受け取りができなくなることから発作が起こる病気です。「突然脳に嵐が起こる」と表現されることもあり、脳の構造そのものは正常ですが、機能にだけ異常が起こります。
猫では比較的珍しく、猫全体の0.5%(200頭に1頭)の割合で発症するとされています。犬のてんかんが遺伝的な要因による「特発性てんかん」が多いのに対し、猫のてんかんでは脳腫瘍や脳炎、外傷によるものなど、なんらかの脳疾患が原因となる「症候性てんかん」がほとんどです。
てんかんは24時間以上の間隔をあけて、少なくとも2回は発作が起こったものと定義されており、一度だけの発作ではてんかんとは診断されません。原因によって「症候性てんかん」と「特発性てんかん」に分類され、それぞれ治療法も異なります。
主な症状と発作の種類
てんかん発作は「部分発作(焦点性発作)」と「全般発作」の大きく2つに分けられます。部分発作は脳の一部が異常に興奮した状態で、全般発作では脳の全体が異常に興奮し、症状の現れ方も大きく異なります。
部分発作の症状例
- 顔面の一部がピクピクとけいれんする
- 四肢の一本だけがガクガクと震える
- 空中を見つめてハエを追いかけるような行動(フライバイト)
- 幻覚を見ているかのような仕草
全般発作の症状例
- 突然倒れて足がピクピクまたはバタバタとした動きを始める
- 全身が突っ張るように硬直する
- 反応がなくなり、排尿や排便、口から泡を噴く場合もある
- 意識を完全に失う
てんかんは何らかの前兆が起きた後にけいれんが出る場合がほとんどですが、よく観察しておかないと気付けないことがあります。時間的には30秒~1分ぐらいが多く、てんかん発作が数分以上続くことはまれです。
注意が最も必要なのは、てんかん発作が5分~10分以上連続続いたり、短い発作が意識の戻らないうちに繰り返し起こった場合で、これを「てんかん重積」と言い、緊急治療が必要です。
てんかん発作の見分け方と観察ポイント

発作中の具体的な症状
てんかん発作の典型的な流れは、まず前兆として落ち着きのなさや飼い主への執着がみられ、その後突然、痙攣が始まり、倒れて足がピクピクまたはバタバタとした動きを始めます。発作中は猫に意識がないため、それほど苦しんではおらず、通常は数秒~2分程度でおさまります。
発作中に観察すべき重要なポイントは以下の通りです。まず発作の持続時間を正確に計測することが最も重要で、これは獣医師にとって診断と治療方針決定の重要な情報となります。5分以上発作が続く場合は「てんかん重積」という緊急事態のため、すぐに動物病院へ連絡が必要です。
発作の様子についても詳しく観察し、可能であればスマートフォンなどで動画を撮影しておくと、獣医師が正確な判断をしやすくなります。症状が落ち着いたなと思ってから数十秒から1、2分程度まで撮影し続けると有用な動画が撮れます。
発作中に確認すべき項目
- 発作の開始時刻と継続時間
- 意識の有無(名前を呼んで反応するか)
- 全身性の発作か、体の一部だけの発作か
- けいれんの種類(ピクピク、ガクガク、硬直など)
- 排尿や排便の有無
- 口から泡を噴くかどうか
- 発作前後の異常な行動
他の病気との見分け方
てんかん以外でも、けいれんのような神経症状を引き起こす病気はたくさんあります。心臓病による低酸素状態、中毒症状、低血糖、電解質バランス異常、肝不全、尿毒症などが原因で発作に似た症状が現れることがあります。
これらの「非てんかん性発作」と真のてんかん発作を見分けるためには、発作の前後の状況も重要な手がかりになります。特別な食べ物を食べた後、薬を飲んだ後、激しい運動の後などに発作が起きた場合は、てんかん以外の原因を疑う必要があります。
また、てんかん発作は直前に大きなきっかけもなく突然始まることが特徴です。発作後は通常、何事もなかったように普段どおりの行動に戻りますが、他の病気による発作の場合は、発作後も元気がない、食欲がないなどの症状が続くことが多いです。
他の病気との主な違い
- てんかん:発作後は通常通りの行動に戻る、特定のきっかけがない
- 心臓病による失神:チアノーゼ(舌や歯茎が青紫色)を伴うことが多い
- 低血糖:食事前や激しい運動後に起こりやすい
- 中毒:特定の食べ物や薬物摂取後に症状が現れる
てんかんの疑いがある場合でも、これらの鑑別疾患を除外するための検査が必要になります。そのため、発作を目撃した際は、前後の状況も含めて詳しく記録しておくことが重要です。

発作が起きた時の応急対応と注意点

発作中にすべきこと・してはいけないこと
てんかん発作を初めて目撃すると緊急事態のように感じますが、発作中は猫に意識がないため、それほど苦しんではいません。最も重要なのは、落ち着いて適切な対応をとることです。
発作中にすべきこと
- 時間を計測する:発作の持続時間を正確に記録します。5分以上続く場合は緊急事態です
- 周囲の安全確保:ソファの上など転落しそうな場所にいる場合は、そっと床の上に下ろしてあげます
- 危険物の除去:倒れてきそうなものや角のある家具をどけて、事故を防止します
- 動画撮影:可能であれば発作の様子をスマートフォンで撮影し、症状が落ち着いてからも数十秒から1~2分程度撮影を続けます
- 呼吸の確保:嘔吐を伴う場合は気道が詰まらないよう、口の中の異物を取り除きます
発作中に絶対してはいけないこと
- 猫を抱きかかえる、触る、動かす(怪我をする危険性があります)
- 体をさすったり揺すったりする(かえって発作が長引くことがあります)
- 口の中に手や物を入れる(舌を噛むのを防ごうとして逆に危険です)
- 大声で名前を呼ぶ(刺激となって発作が悪化する可能性があります)
特に猫の発作後期では大運動会のように飛び回ることがありますが、この動きを止めようとすると飼い主が大怪我をする可能性があるため、絶対に触らないでください。
獣医師への相談タイミング
発作が起きた場合、以下の状況では即座に動物病院に連絡し、緊急受診が必要です。
緊急受診が必要な場合
- てんかん発作が5分以上続く場合
- 短い発作が意識の戻らないうちに繰り返し起こる場合(てんかん重積)
- 1日に何度も発作を起こしている場合
- 発作後に意識が戻らない、または異常な状態が続く場合
- 初回の発作で原因が不明な場合
初回の発作や軽度の発作であっても、必ず動物病院を受診してください。てんかんの診断には詳しい問診と検査が必要で、他の病気が原因の可能性もあるため、獣医師による正確な診断が重要です。
受診時に伝えるべき情報
- 発作の継続時間と頻度
- 発作中の具体的な症状(動画があればさらに良い)
- 発作前後の猫の様子
- 最近の体調変化や与えた食べ物、薬など
- 過去の発作歴や外傷歴
通常のてんかん発作は数分以内に自然に治まり、猫は何事もなかったように普段どおりの行動に戻りますが、重積発作が続くような状態の場合は予後が不良となることがあるため、早期の適切な対応が猫の命を救うことにつながります。
てんかんの診断・治療と日常管理

診断方法と治療選択肢
てんかんの診断は基本的に除外診断で行われ、まず問診で発作時の詳しい状況を確認します。診断には段階的なアプローチが取られ、身体検査、血液検査、神経学的検査を行い、てんかん以外の原因を一つずつ除外していきます。
血液検査では腎不全や肝機能異常、低血糖などてんかんに似た症状を起こす他の病気がないかを確認し、神経学的検査では姿勢反応や脊髄反射、脳神経検査を行って神経症状の部位を特定します。さらに詳しい検査が必要な場合は、MRI検査や脳脊髄液検査を実施して脳炎や脳腫瘍の有無を調べます。
主な診断検査
- 問診:発作の詳細な状況確認
- 血液一般検査・生化学検査:他の病気の除外
- 神経学的検査:神経症状の局在診断
- MRI検査:脳の構造的異常の確認(全身麻酔が必要)
- 脳脊髄液検査:脳炎などの炎症の確認
- 脳波検査:てんかん特有の異常波形の検出
治療は原因によって異なり、症候性てんかんの場合は脳腫瘍など原因となっている病気の治療が基本となります。特発性てんかんでは抗てんかん薬による薬物療法が中心で、発作の回数を減らして重症化を防ぐことを目的とします。
抗てんかん薬は発作を完全になくすことはできませんが、発作が3ヶ月に1回程度まで抑えることが治療の最終目標です。薬を飲みながら定期的に血液検査を行い、発作の回数と血液中の薬の濃度をみながら投薬量を調整します。
日常生活での注意点と予防策
てんかんと診断された猫の日常管理では、発作の誘因を避けることが重要です。てんかん発作は脳機能の乱れによって起こりますが、大きな音や強い光、不安や緊張状態がきっかけとなる場合があります。
日常生活での注意点
- 興奮させすぎない環境作り
- ストレスをかけない生活の維持
- 定期的な生活リズムの確保
- 抗てんかん薬の確実な投与(毎日同じ時間に)
- 薬を切らさないよう注意深い管理
抗てんかん薬の服用は、獣医師に指示された正しい用量を毎日同じ時間に行うことが極めて重要です。薬がなくなったり、獣医師に相談なく突然服用を中止したりすると、制御不能な発作につながる可能性があります。基本的に薬は一生涯必要で、症状が良くなったと思って独断で中止するのは危険です。
てんかんを完全に予防する方法は残念ながらありませんが、症候性てんかんの原因となる病気の予防は可能です。完全室内飼育によって外傷のリスクを減らし、必要に応じてワクチン接種を行うことで感染症による脳炎を予防できます。
内服で発作をコントロールできれば、てんかんの猫も寿命まで元気に過ごすことができます。適切な治療と管理により、発作を3ヶ月に一度程度にコントロールできれば、健康な猫と変わらない寿命を迎えることができるとされています。
よくある質問(Q&A)
Q1. てんかんの猫は普通の猫より寿命が短いのでしょうか?
A1. 適切な治療と管理により、発作を3ヶ月に一度程度にコントロールできれば、健康な猫と変わらない寿命を迎えることができます。重要なのは、抗てんかん薬を継続的に服用し、定期的な獣医師の診察を受けることです。ただし、てんかん重積などの重篤な発作が繰り返される場合は、予後が不良となることがあります。
Q2. てんかんの薬は一生飲み続ける必要があるのですか?
A2. はい、基本的には生涯にわたって服用が必要です。抗てんかん薬はてんかんを完治させる薬ではなく、発作の頻度を減らすことが目的です。症状が良くなったからといって独断で服用を中止すると、制御不能な発作につながる危険性があります。必ず獣医師の指示に従い、薬を切らさないよう注意深く管理してください。
Q3. てんかんの薬にはどのような副作用がありますか?
A3. 抗てんかん薬の副作用として、飲み始めにふらつきや元気がなくなる(鎮静)、興奮、運動失調などが見られることがあります。通常、1~2週間のうちに自然と落ち着きます。長期的には多飲多尿や食欲増加などの副作用が現れることもあります。副作用の確認のため、定期的な血液検査が必要です。
Q4. てんかんは遺伝するのでしょうか?
A4. 猫のてんかんでは、症候性てんかん(脳腫瘍や脳炎などが原因)がほとんどで、遺伝的な要因による特発性てんかんは稀です。ただし、特発性てんかんの一部では遺伝が関連していることもあります。繁殖を考えている場合は、獣医師に相談することをお勧めします。
Q5. てんかんの発作中に舌を噛まないよう口に何かを入れてもいいですか?
A5. 絶対にしないでください。発作中に口の中に手や物を入れると、飼い主が怪我をしたり、猫の口の中を傷つけたりする危険性があります。発作中は猫に触らず、周囲の安全を確保することに専念してください。
Q6. てんかんの猫に与えてはいけない食べ物はありますか?
A6. てんかん自体に特別な食事制限はありませんが、チョコレートやキシリトールなど、猫にとって中毒性のある食べ物は絶対に与えないでください。これらは発作を誘発する可能性があります。また、急激な血糖値の変化を避けるため、規則正しい食事を心がけることが大切です。
Q7. てんかんの発作はストレスで起こることがありますか?
A7. はい、大きな音や強い光、不安や緊張状態がてんかん発作の誘因となることがあります。そのため、愛猫をあまり興奮させず、ストレスをかけない生活環境を整えることが発作の予防につながります。定期的な生活リズムを保つことも重要です。
まとめ

猫のてんかんは犬に比べて稀な病気ですが、発作を目撃した時の適切な対応が愛猫の命を救うことにつながります。最も重要なのは、慌てずに冷静に対処することです。
発作中は猫に触らず、時間を計測し、可能であれば動画を撮影してください。5分以上発作が続く「てんかん重積」の場合は緊急事態のため、すぐに動物病院へ連絡が必要です。発作後は必ず獣医師の診察を受け、正確な診断と適切な治療を受けることが大切です。
てんかんと診断されても、適切な治療と日常管理により、多くの猫が健康な猫と変わらない寿命を迎えることができます。抗てんかん薬は獣医師の指示通りに服用し、決して独断で中止してはいけません。ストレスの少ない生活環境を整え、定期的な診察を受けながら、愛猫と共にてんかんと向き合っていきましょう。
重要なポイント
- 発作中は触らず、時間を計測し記録する
- 5分以上の発作は緊急事態
- 必ず獣医師の診察を受ける
- 抗てんかん薬は生涯継続が基本
- 適切な管理で健康な猫と同じ寿命が期待できる
もし愛猫に発作のような症状が見られた場合は、この記事の情報を参考に冷静に対処し、できるだけ早く動物病院を受診してください。
参考文献・参照記事
この記事は以下の信頼できる情報源を参考に作成されました。
獣医師監修記事・動物病院公式情報
- KINS WITH 動物病院「【猫のてんかん】症状と原因、治療について」(2024年6月5日)
- URL: https://kinswith-vet.com/journal/1304/
- 猫のてんかんの基本的なメカニズムと治療法について
- ペット保険のPS保険「猫のてんかんの症状と原因、治療法について」(2023年7月4日)
- URL: https://pshoken.co.jp/note_cat/disease_cat/case065.html
- 獣医師監修による症状の詳細と診断方法
- 価格.com – 獣医師解説記事「猫のてんかんの症状・原因と治療法について」
- URL: https://hoken.kakaku.com/pet/cat_injuries/brain/tenkan/
- 治療費の実例と予後について
- ねこのきもちWEB MAGAZINE「【獣医師監修】猫のてんかん│症状と原因、治療法や対処法について解説」(2021年10月23日)
- URL: https://cat.benesse.ne.jp/withcat/content/?id=18656
- 東京大学獣医学科出身獣医師による監修記事
- アポロ動物病院「犬,猫のてんかんの原因と対処,治療法について|獣医師が解説」(2024年9月19日)
- URL: https://apollo-ah.com/2022/08/03/犬猫のてんかんの原因と対処治療法について獣/
- 埼玉県の動物病院による応急処置の詳細解説
- 姉ヶ崎どうぶつ病院「犬と猫のてんかんについて|発作が起きたときに慌てないために」(2024年11月13日)
- URL: https://anegasaki-ah.jp/column/fZE5nrf2LFrc/
- 千葉県の動物病院による発作時対応マニュアル
ペット保険会社・専門機関
- FPCペット保険「てんかん」(2024年12月25日)
- URL: https://www.fpc-pet.co.jp/cat/disease/367
- てんかんの分類と検査方法の詳細
- アニコム損害保険「てんかん <猫> | みんなのどうぶつ病気大百科」
- URL: https://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/1062
- 症状と治療の基本情報
- にゃんペディア「猫の「てんかん」の薬【獣医師解説】~動物病院で処方されたお薬ガイド④~」
- URL: https://nyanpedia.com/medications-for-epilepsy-in-cats/
- 抗てんかん薬の詳細な解説
専門的な医療情報
- 江東どうぶつ医療センター「てんかん~ その2」(2023年1月27日)
- URL: https://www.ka-mc.com/blog/572.html
- てんかんの診断と治療の詳細
- 大通どうぶつ通信 vol.18
- URL: https://oodori-ah.com/tsushin_18.html
- てんかんの管理と予後について
- たかつきユア動物病院「【獣医師監修】犬猫のてんかん発作が起きた時には家族はどう対応すべきか?【緊急対応】」(2021年12月28日)
- URL: https://takatsuki-your-ah.net/seizures/
- 緊急時の対応方法
飼い主体験談・実例
- NekoSon.Blog「【猫のてんかん】てんかん猫の年間治療費はどのくらい?我が家の5年間の病院代を大公開!」(2021年8月30日)
- URL: https://nekoson.blog/tenkan_costs/
- てんかん治療の実際の費用例
- アニコム損害保険「猫のてんかんの原因や治療法は?」(2025年5月15日)
- URL: https://www.anicom-sompo.co.jp/nekonoshiori/3346.html
- 猫のてんかんの基本情報と管理方法
本記事の情報は、上記の信頼できる情報源に基づいて作成されていますが、個々の猫の状態や症状については、必ず獣医師にご相談ください。



コメント