獣医師監修!猫の高血圧症とは?検査方法と管理ポイント

健康・医療


はじめに

愛猫の健康を考える飼い主さまにとって、「高血圧症」という言葉は馴染みが薄いかもしれません。しかし実は、猫の高血圧症は決して珍しい病気ではなく、特に中高齢の猫ちゃんに多く見られる深刻な健康問題です。

最も恐ろしいのは、高血圧が原因で愛猫が突然失明してしまう可能性があることです。また、腎臓や心臓への負担も大きく、適切な治療を行わなければ命に関わることもあります。

この記事では、猫の高血圧症の原因から症状の見分け方、動物病院での検査方法、そして効果的な治療と日常管理のポイントまでを詳しく解説します。早期発見と適切な対処により、愛猫の健康と視力を守り、より良い生活を送ることができるでしょう。

 

猫の高血圧症とは?原因と危険性

高血圧が猫の体に与える深刻な影響

猫の高血圧症は、血管内の圧力が慢性的に高い状態が続く病気です。正常な猫の血圧は収縮期血圧140mmHg未満とされていますが、160mmHg以上が持続すると高血圧と診断され、180mmHg以上では重度の高血圧として緊急性の高い治療が必要となります。

高血圧が最も恐ろしいのは、眼への影響です。高い血圧により毛細血管の内側が傷つき、眼球内出血や網膜剥離、緑内障などが起こります。これらの症状は突然現れることが多く、飼い主さんが気づいた時には既に愛猫が失明している場合も少なくありません。実際に、高血圧の猫の約55%に眼の異常が見られるという報告もあります。

また、高血圧は腎臓にも深刻なダメージを与えます。腎機能の低下を引き起こし、さらなる血圧上昇という悪循環を生み出してしまいます。心臓に対しても負荷が増大し、心臓の肥大や心不全のリスクが高まります。さらに、脳血管障害により発作や失神、麻痺などの神経症状が突然現れることもあります。

高血圧を引き起こす主な原因疾患

猫の高血圧の約80%以上は、他の病気が原因となる二次性高血圧です。最も多い原因は慢性腎臓病で、腎臓にあるレニン-アンギオテンシン系という血圧調節システムが正常に機能しなくなることで血圧が上昇します。15歳以上の猫では約81%が何らかの腎臓病を患っているため、高齢猫の血圧管理は特に重要です。

次に多いのが甲状腺機能亢進症です。甲状腺ホルモンの過剰分泌により心拍数や血管抵抗が増加し、血圧上昇を引き起こします。高齢猫に多く見られる疾患で、高血圧と併発することが多いため注意が必要です。→【甲状腺機能亢進症についてはこちら】

その他の原因として、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、高アルドステロン症なども挙げられます。また、ステロイド薬やエリスロポエチンなどの薬剤が血圧上昇を引き起こすこともあります。塩分の多い食事も高血圧の要因となるため、人間の食べ物を与えることは避けるべきです。

原因が不明の特発性高血圧は猫では比較的少なく、全体の約20%程度とされています。しかし、これらの中には検出できない早期の腎疾患も含まれていると考えられており、定期的な健康診断による早期発見が重要です。

見逃してはいけない症状と検査方法

飼い主が気づくべき症状のサイン

高血圧症の初期段階では目立った症状が現れないため、「サイレントキラー」とも呼ばれています。しかし、病気が進行すると以下のような症状が見られるようになります。

眼に関する症状が最も分かりやすいサインです。片方または両方の瞳孔が散大し、瞳が丸く開いたままの状態になります。また、眼の充血や視覚障害により、暗い場所でも物にぶつかったり、段差につまずいたりする様子が見られます。突然失明することもあり、飼い主さんが「朝起きたら急に見えなくなっていた」と気づくケースも少なくありません。

行動の変化も重要な指標です。ふらつきや方向感覚の失調により、普段なら簡単に歩けていた場所で転倒したり、バランスを崩したりします。高血圧性脳症による神経症状として、性格の変化や異常行動、頭を振る動作が見られることもあります。

その他の症状として、鼻血が出る、元気がなくなる、食欲不振などが挙げられます。これらの症状は他の病気でもよく見られるため、高血圧だけが原因とは限りませんが、特に10歳以上の高齢猫でこれらの症状が見られた場合は、血圧測定を含む詳しい検査を受けることをお勧めします。

動物病院での血圧測定と数値の見方

動物病院での血圧測定は、人間と同じように腕や尻尾にカフ(圧迫帯)を巻いて行います。猫は緊張や興奮により血圧が実際よりも高く測定される「白衣性高血圧」が起こりやすいため、測定には特別な配慮が必要です。

測定は静かな部屋で、できるだけリラックスした状態で行われます。猫の性格によっては、他の動物が少ない時間帯を選んだり、飼い主さんに立ち会ってもらったりすることもあります。最初の測定値は破棄し、5〜7回ほど測定して平均値を算出します。

血圧の分類は以下の通りです:

  • 正常血圧:収縮期血圧140mmHg未満
  • 前高血圧:収縮期血圧140〜159mmHg
  • 高血圧:収縮期血圧160〜179mmHg(将来的な臓器障害の中程度リスク)
  • 重度高血圧:収縮期血圧180mmHg以上(臓器障害の高リスク)

収縮期血圧が160mmHg以上で持続する場合は治療が開始され、180mmHg以上では緊急性が高いため、1〜2週間以内に治療を開始する必要があります。

血圧測定は一回の検査だけでは正確な診断ができないため、複数回の測定が必要です。高血圧の疑いがある場合は1〜2ヶ月間隔で、重度の場合は1〜2週間間隔で再測定を行い、持続的な高血圧かどうかを判断します。

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治療と日常管理のポイント

効果的な薬物療法の選択肢

猫の高血圧症治療において、アムロジピンベシル酸塩第一選択薬として広く使用されています。この薬は血管を拡張させることで血圧を下げる効果があり、猫における安全性と有効性が確立されています。通常、体重1kgあたり0.125〜0.25mgを1日1回経口投与から開始し、効果が不十分な場合は0.5mgまで増量できます。

治療開始から14日後に改善が見られない場合は、用量を倍にするか、他の薬剤との併用を検討します。難治性の血圧管理では、ACE阻害薬(ベナゼプリル、エナラプリル)やARB(テルミサルタン)との併用も行われます。これらの薬剤は、アンジオテンシンというホルモンの働きを阻害することで血管抵抗を低下させます。

薬物療法の効果は個体差があり、最初は効果が見られても途中で薬が効かなくなることもよくあります。そのため、定期的な血圧測定と薬の調整が不可欠です。状態が安定化しても、少なくとも3ヶ月ごとのモニタリングが推奨されています。

自宅でできる管理方法と生活の工夫

基礎疾患の治療と並行して、日常生活での管理も重要な要素です。食事療法では、ナトリウム(塩分)の制限が最も重要です。腎臓病用療法食は自然にナトリウムが制限されており、高血圧の管理にも適しています。

腎臓病用療法食の例

  • ロイヤルカナン 腎臓サポート
    リンとナトリウムを制限し、高消化性タンパク質を配合。食欲低下に配慮した独自の香り組成で嗜好性を向上
  • ヒルズ プリスクリプション・ダイエット k/d
    ベタインとプレバイオティクス繊維ブレンドで腸内環境を整え、腎臓の健康をサポート。リン調整と低ナトリウム設計

これらの療法食は、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどの大手ECサイトで購入可能ですが、必ず獣医師の指導のもとで給与してください。

ストレス軽減も血圧管理において重要です。静かで落ち着いた環境を提供し、急激な温度変化を避けることで血圧の安定化に寄与します。特に冬場は血管収縮により血圧が上昇しやすいため、適切な室温管理が必要です。
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水分摂取の促進も欠かせません。新鮮な水をいつでも飲めるよう複数箇所に水飲み場を設置し、ウェットフードの活用により水分摂取量を増やすことができます。体重1kgあたり約50mlが1日の目安飲水量ですが、飲水量の急激な変化は病気の悪化を示すサインでもあるため、定期的な観察が重要です。

近年では、家庭用血圧測定器も利用可能になっています。

  • エルデ ペット血圧計 PES-1700
    日本初の動物用一般医療機器として認可を取得した正規品。家庭でのリラックスした状態での血圧測定が可能です。

ただし、家庭用血圧計は動物病院での測定と完全に同じ精度ではないため、あくまで参考値として活用し、定期的な動物病院での検査は継続する必要があります。

よくある質問(Q&A)

Q1. 猫の高血圧は人間の高血圧と同じですか?

A. 基本的なメカニズムは似ていますが、いくつかの違いがあります。人間の正常血圧は収縮期血圧120mmHg未満ですが、猫では140mmHg未満が正常とされ、もともと猫の方が血圧の基準が高めに設定されています。また、猫の高血圧の約80%以上は他の病気が原因となる二次性高血圧で、特に腎臓病や甲状腺機能亢進症との関連が強いのが特徴です。

Q2. 家で愛猫の血圧を測ることはできますか?

A. はい、家庭用のペット血圧計が市販されています。「エルデ ペット血圧計 PES-1700」は日本初の動物用一般医療機器として認可を取得した製品で、楽天やYahoo!ショッピングなどで購入可能です。ただし、家庭用血圧計の精度は動物病院の機器より劣るため、あくまで参考値として活用し、定期的な動物病院での検査は必ず継続してください。また、一部の動物病院では血圧計の貸し出しサービスを行っている場合もあります。

Q3. 高血圧で失明した場合、視力は回復しますか?

A. 早期に治療を開始すれば、視力が回復する可能性があります。特に網膜剥離の場合、降圧治療により4〜7日程度で網膜が再び癒着することがあります。ただし、治療が遅れるほど回復の可能性は低くなるため、眼の異常に気づいたらすぐに動物病院を受診することが重要です。完全に失明してしまった場合でも、適切な治療により他の臓器への影響を防ぐことができます。

Q4. 高血圧の薬は一生飲み続けなければなりませんか?

A. 多くの場合、生涯にわたる治療が必要です。猫の高血圧は基礎疾患(腎臓病や甲状腺機能亢進症など)が原因となることが多く、これらの病気自体が完治困難なためです。薬を中断すると血圧が再び上昇し、臓器へのダメージが進行する可能性があります。ただし、基礎疾患の治療が功を奏して血圧が安定した場合は、獣医師の判断により薬の減量や中断を検討することもあります。

Q5. 肥満の猫は高血圧になりやすいですか?

A. 人間では肥満が高血圧の重要な危険因子ですが、猫では肥満と高血圧の直接的な関連性は明確ではありません。猫の高血圧は主に腎臓病や甲状腺機能亢進症などの基礎疾患が原因となるため、肥満よりもこれらの病気の有無が重要です。ただし、適正体重の維持は全体的な健康管理において重要であり、間接的に高血圧のリスク軽減に寄与する可能性があります。

Q6. 高血圧の猫にはどのような食事を与えればよいですか?

A. 最も重要なのはナトリウム(塩分)の制限です。人間の食べ物(ハム、ベーコン、チーズ、かつお節など)は塩分が多いため避けてください。腎臓病用療法食は自然にナトリウムが制限されており、高血圧の管理にも適しています。ロイヤルカナンの「腎臓サポート」ヒルズの「k/d」などが代表的ですが、必ず獣医師の指導のもとで給与してください。

Q7. 若い猫でも高血圧になることはありますか?

A. 若い猫での高血圧は比較的まれですが、全くないわけではありません。先天性の腎疾患や遺伝的要因により若い猫でも高血圧を発症することがあります。ただし、高血圧のリスクは年齢とともに上昇し、特に10歳以上の高齢猫で急激に増加します。7歳以上になったら定期的な血圧測定を含む健康診断を受けることをお勧めします。

Q8. 高血圧の猫の予後はどうですか?

A. 早期発見・早期治療により、多くの猫で良好な予後が期待できます。適切な降圧治療により臓器へのダメージの進行を抑制でき、生活の質(QOL)を維持することが可能です。ただし、重度の臓器障害(失明、腎不全の進行など)が既に起こっている場合は、予後に影響することがあります。定期的なモニタリングと治療の継続が、長期的な健康維持の鍵となります。

まとめ

猫の高血圧症は「サイレントキラー」と呼ばれる通り、初期症状に乏しく気づかれにくい病気です。しかし、放置すると失明や腎不全、心不全など深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

特に重要なのは早期発見です。10歳以上の高齢猫では定期的な血圧測定を含む健康診断を受け、眼の異常やふらつきなどの症状に注意を払いましょう。また、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症などの基礎疾患を持つ猫では、より頻繁な血圧チェックが必要です。

治療においては、アムロジピンを中心とした降圧薬による適切な薬物療法と、ナトリウム制限食や水分摂取促進などの日常管理の両輪が重要です。家庭用血圧計の活用により、リラックスした状態での血圧モニタリングも可能になっています。

高血圧は完治困難な病気ですが、早期発見と継続的な治療により、愛猫の視力と健康を守り、質の高い生活を維持することができます。気になる症状があれば、早めに獣医師にご相談ください。

参考文献・参考資料

本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参照いたしました。

獣医学関連の専門機関・学会

  1. 日本獣医腎泌尿器学会 – 猫の慢性腎臓病の治療に対する推奨事項
    https://www.javnu.jp/guideline/iris_2016/cat_stage_03.html
  2. アメリカ獣医内科学会(ACVIM) – 犬と猫の高血圧ガイドライン2024
    犬と猫における高血圧の診断、分類、治療に関する国際的基準

動物病院・獣医師監修サイト

  1. FPCペット保険 – 猫の高血圧症について
    https://www.fpc-pet.co.jp/cat/disease/281
  2. 東京ウエスト動物病院 – 犬と猫の高血圧ガイドライン
    https://tokyowest-ah.jp/blog/2024/08/01/犬と猫の高血圧ガイドライン2024/
  3. 森田動物医療センター – 猫の高血圧について
    https://www.animal-hospital.jp/blog/707
  4. こんどう動物病院 – 高血圧性眼症
    https://www.kondo-vet.com/ophthalmology-4
  5. 動物医療センター白金台 – 犬・猫の高血圧症例報告
    https://amc-shirokanedai.com/clinicalcases.php?eid=00009
  6. こざわ犬猫病院 – 猫の高血圧症
    https://www.anicare.net/illness/猫の高血圧症/
  7. Grow-Wing Animal Hospital – 犬と猫の高血圧
    https://growwing.jp/medical/cat/cat02.html

獣医学専門情報サイト

  1. 動物の医療と健康を考える情報サイト(ARKRAY)
    ネコの慢性腎臓病に使用する内服薬の整理と比較
    アメリカ獣医内科学学会による高血圧ガイドライン
  2. 動物病院サプリ – 猫の高血圧とは?
    https://animaldoc.jp/cat-sick/cats-hypertension/
  3. Dr.Nyanのすこやかコラム – 猫の高血圧症
    https://dr-nyan.com/column/cat-high-blood-pressure/

ペット栄養・食事療法関連

  1. ヒルズペット – 猫の腎臓の健康と療法食
    https://www.hills.co.jp/health-conditions/cat/kidney
  2. アイペット損保 にゃんペディア
    猫の慢性腎臓病の薬(獣医師解説)
    猫が病気の時の食事(慢性腎臓病)
  3. アイシア株式会社 – 猫の腎臓病の予防になる食事
    https://www.aixia.jp/know_enjoy/kidney_care/meal/
  4. エステー株式会社 猫の泌尿器ケア研究会
    愛猫を慢性腎臓病にさせない7つの習慣
    https://nyantomo-health.com/prevention/chronic-renal-failure_01/

医療機器・製品情報

  1. ぽちたま薬局 – アムロジピン(犬猫用高血圧治療薬)
    https://pochitama.pet/detail.php?pid=641
  2. ペピイベット(動物医療関係者向け通販) – 犬猫用血圧計 Vet20
    https://www.vetswan.com/shop/item/id/A72003
  3. エルデ ペット血圧計 PES-1700 – 家庭用動物血圧計
    日本初の動物用一般医療機器認可取得製品

注意事項

  • 本記事の情報は一般的な教育目的で提供されており、個別の診断や治療の代替となるものではありません
  • 愛猫の健康に関する具体的な判断は、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください
  • 療法食や治療薬の使用は、獣医師の指導のもとで行ってください
  • 緊急性の高い症状(突然の失明、意識障害など)が見られた場合は、直ちに動物病院を受診してください

 

【この記事の監修者】
窪木未津子 獣医師 / 富士見台どうぶつ病院 院長

群馬県出身。ヤマザキ動物専門学校卒業後、麻布大学獣医学部を修了。埼玉県と東京都の動物病院で勤務した経験を持つ。

獣医師・動物看護士・トリミング・ドッグトレーナーの資格を有し、あらゆる面でペットとその飼い主をサポート。生活の悩みから病気やケガに至るまで、幅広い相談に応じる。

過去に飼っていた動物として、ツキノワグマ、リスザル、ニオイカメ、魚、鳥、フクロモモンガ、ハムスター、シマリスなど、多種多様な動物たちと共に過ごしてきました。

院長を務める動物病院「富士見台どうぶつ病院」

住所:東京都中野区上鷺宮4-15-6
電話番号:03-3825-1111
診療時間:午前9:00〜12:00 午後16:00〜19:00
休診日:木曜日
診療対象:犬、猫、うさぎ、ハムスター、フェレット(その他の種類はお問合せください)
※お電話でのご予約は受付けておりません。

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