はじめに
愛猫がシニア期に入ると、「夜鳴きがひどくなった」「トイレを失敗するようになった」「いつもと違う場所で戸惑っている」など、これまでとは違う行動の変化が現れることがあります。
15歳以上の猫では半数程度に何らかの認知症の症状が見られると言われており、猫の認知症は決して珍しい疾患ではありません。認知症を完治させる薬はないものの、食事や生活環境の工夫により予防でき、進行を遅らせることも可能です。
本記事では、猫の認知症の基礎知識から症状の見分け方、予防のための生活環境づくり、症状別の対処法まで、シニア猫の飼い主さんが知っておきたい情報をお伝えします。
猫の認知症とは?発症メカニズムと年齢との関係

猫の認知症は、正式には「認知機能不全症候群」と呼ばれ、脳の認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態のことを指します。主な原因は老化による脳の経年劣化で、脳細胞は一度死滅すると基本的に再生しないため、徐々に脳の機能が低下していきます。
発症メカニズムは人間のアルツハイマー病と非常に似ており、脳に老廃物が蓄積することで神経細胞が損傷し、脳全体が萎縮していきます。発症年齢については、10歳を過ぎる頃から認知機能の低下が見られる猫が増え、11歳から14歳の猫では約30%、15歳以上では約50%の猫に少なくとも一つ以上の認知症の兆候が見られるという研究報告があります。
初期症状から進行期まで:段階別の症状チェックリスト
猫の認知症の症状は、「DISHA」という5つのカテゴリーに分類されます。これは以下の頭文字を取ったものです。
- 見当識障害(Disorientation):慣れた環境でも迷う、壁や物の前で立ち尽くす、家族や同居猫が分からなくなる
- 相互反応の変化(Interaction):名前を呼んでも反応しない、おもちゃに関心を示さない、飼い主との関わりを避ける
- 睡眠覚醒サイクルの変化(Sleep-wake cycle):昼夜逆転の生活、夜中の意味のない大声での鳴き続け(夜鳴き)
- 排泄の失敗(House soiling):トイレの場所が分からない、迷っているうちに粗相してしまう
- 活動性の変化(Activity):同じ場所をぐるぐると徘徊する、狭いところに入り込んで出られなくなる
これらの症状は段階的に進行し、初期では軽微な変化として現れますが、進行するにつれて日常生活により大きな影響を与えるようになります。重要なのは、これらの症状が認知症以外の病気でも起こる可能性があるため、専門的な診断を受けることが必要です。
認知機能低下を防ぐ生活環境づくり

脳を刺激する環境整備のポイント
認知症の予防には、脳に適度な刺激を与えることが重要です。以下の方法で猫の脳を活性化させることができます。
- コミュニケーション:名前を呼んだり、優しく声をかけたりする
- 遊び:ねこじゃらしなどのおもちゃを使って一緒に遊ぶ
- 知育トイ:中にフードを入れて転がすと少しずつ出てくるおもちゃを利用
- 適度な運動:体に負担のかからない程度の遊びや散歩
- 日光浴:脳内の「セロトニン」分泌を促進し、不安を和らげる効果
ただし、これらの刺激を与える際は、猫が喜んでいるかどうか、リラックスできているかを確認しながら行うことが重要です。無理強いはストレスになり逆効果につながってしまいます。
安全で快適な住環境の作り方
認知症の進行を予防し、すでに症状が現れている猫にとって安全で快適な住環境を整えることは非常に重要です。以下のポイントに注意して環境を整備しましょう。
基本的な環境整備
- 家具の模様替えや大きな環境変化を避ける
- 障害物のないまっすぐな道を用意する
- 滑り止めやマットを敷いて安全性を向上させる
- 室内飼育を徹底し、屋外に出ないよう注意する
トイレ環境の整備
- 自分で行きやすく快適な広さを確保
- 高さの低いトイレに取り替える、またはスロープを取り付ける
- 複数のトイレを設置し、アクセスしやすくする
生活リズムの管理
- 食事の時間を規則正しくする
- 消灯する時間を一定にする
ストレス軽減も認知症予防の重要な要素です。ストレスは脳の血流を悪くし、認知症を悪化させると言われています。猫にとってストレスフリーな生活を心がけ、清潔で快適な環境維持に努めることが大切です。

日常ケアと予防のための実践方法

食事・栄養管理と推奨サプリメント
猫の認知症予防には、毎日の食事が重要な役割を果たします。脳の健康を保つために、以下の栄養素を積極的に摂取することが推奨されます。
重要な栄養素
- オメガ3脂肪酸(DHA・EPA):脳を活性化させる物質で、青魚に多く含まれる
- 抗酸化物質:ビタミンE、ビタミンC、β-カロテン、フラボノイドなど
- フェルラ酸:天然の抗酸化物質
年齢に合った食事を選ぶことも重要です。シニア用の総合栄養食にはオメガ3脂肪酸が豊富に含まれています。
おすすめサプリメント
毎日一緒 DHA&EPA(ウィズペティ):
DHA・EPA・亜麻仁油・フェルラ酸・イチョウ葉エキス・ビタミンE・ビタミンB12を配合した国産サプリメント。全猫種が食べやすい錠剤タイプです。サプリメントの使用については、必ず獣医師に相談してから与えることをおすすめします。
運動と脳トレーニングの取り入れ方
適度な運動と脳への刺激は、認知機能の維持と向上に効果的です。
運動の取り入れ方
- 短時間の遊び:長時間ではなく、短時間を何度も繰り返す
- マッサージ:お顔だけでなく、手足、指先を優しくマッサージする
- 適度な探索活動:新しい場所や物への興味を引く
脳トレーニングの方法
ノーズワークは好きなおやつを隠して見つけ出して食べる遊びです。
キャティーマン にゃんこのでるでる自飯器:
ドラムを回すとフードやおやつが飛び出す仕組みで、猫が工夫して取り出すことで脳に刺激を与えます。Catit フードツリー:
複数の段階に分かれた構造で、猫が前足を使ってフードを取り出す知育玩具。狩猟本能を刺激し、早食い防止にも効果的です。これらの活動を行う際は、猫の体力や体調に合わせて無理のない範囲で実施し、猫が楽しんでいるかを確認することが大切です。
認知症の症状別対処法と治療選択肢

夜鳴き・徘徊・トイレ問題への対応策
認知症の症状として最も困難とされる夜鳴きや徘徊、トイレの失敗について、それぞれの対処法を紹介します。
夜鳴きへの対処法 夜鳴きには「要求鳴き」と「意味のない夜鳴き」があります。まず何を要求しているかを見極めることが重要です。
- 要求鳴きの場合:トイレの掃除、食事、水の補給、室温調整など基本的な要求に応える
- 意味のない夜鳴きの場合:優しく声をかけ、抱っこやブラッシングでスキンシップを図る
- 環境整備:夜間の照明を調整し、規則正しい生活リズムを作る
- 決して叱らない:怒鳴ったり叩いたりすることは絶対に避ける
徘徊・トイレ問題への対処法
- 安全な環境整備:段差をなくし、危険な場所への立ち入りを制限する
- トイレの増設:複数の場所にトイレを設置し、アクセスしやすくする
- 清潔な環境:こまめな清掃と交換
- 成功時の褒め方:トイレが成功したときは盛大に褒める
獣医師との連携と治療方法
猫の認知症の診断と治療には、獣医師との連携が不可欠です。現在、認知症を根本的に完治させる薬はありませんが、症状の緩和や進行を遅らせる治療選択肢があります。
診断プロセス 認知症の診断は、他の疾患との鑑別が重要です。甲状腺機能亢進症、高血圧症、関節炎、腎臓病、脳腫瘍などが除外診断される必要があります。
→【甲状腺機能亢進症についてはこちら】
→【腎臓病についてはこちら】
治療選択肢
- 薬物療法:抗不安薬やセロトニン再取り込み阻害薬による症状緩和
- 栄養療法:DHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸や抗酸化物質の摂取
- 環境療法:ストレス軽減と認知機能刺激のための環境整備
症状が進行した場合は、安定剤や鎮静剤の使用も検討されますが、最終手段として慎重に使用されます。認知症は完治しない病気ですが、適切な治療と環境整備により、猫と飼い主の両方の生活の質を向上させることが可能です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 猫の認知症は何歳から発症しますか?
A. 猫の認知症は一般的に10歳を過ぎる頃から認知機能の低下が見られる猫が増えてきます。11歳から14歳の猫では約30%、15歳以上では約50%の猫に少なくとも一つ以上の認知症の兆候が見られるという研究報告があります。18歳を超えた猫では、より顕著な認知症の症状が現れることが多いとされています。
Q2. 認知症の症状と単なる老化現象の違いは何ですか?
A. 認知症の症状は「DISHA」という5つのカテゴリーで分類されます:見当識障害(慣れた環境でも迷う)、相互反応の変化(名前を呼んでも反応しない)、睡眠覚醒サイクルの変化(昼夜逆転、夜鳴き)、排泄の失敗(トイレを失敗する)、活動性の変化(徘徊、狭い場所に入り込む)。これらの症状が複数見られ、日常生活に支障をきたすレベルであれば認知症の可能性があります。
Q3. 猫の認知症は治りますか?
A. 現在、認知症を根本的に完治させる薬はありません。しかし、症状の緩和や進行を遅らせる治療選択肢があります。薬物療法(抗不安薬、セロトニン再取り込み阻害薬)、栄養療法(DHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸)、環境療法(ストレス軽減)、行動療法(適度な運動と脳トレーニング)などを組み合わせて対応します。
Q4. 夜鳴きがひどい場合の対処法は?
A. まず「要求鳴き」か「意味のない夜鳴き」かを見極めることが重要です。要求鳴きの場合は、トイレの掃除、食事、水の補給、室温調整など基本的な要求に応えます。意味のない夜鳴きの場合は、優しく声をかけ、抱っこやブラッシングでスキンシップを図ります。夜間の照明を調整し、規則正しい生活リズムを作ることも効果的です。決して叱らず、怒鳴ったり叩いたりしないことが大切です。
Q5. 認知症予防に効果的な食事やサプリメントはありますか?
A. 脳の健康を保つために、オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)、抗酸化物質(ビタミンE、ビタミンC、β-カロテン、フラボノイド)、フェルラ酸などの栄養素を積極的に摂取することが推奨されます。市販のサプリメントとしては、「毎日一緒 DHA&EPA(ウィズペティ)」などがあります。サプリメントの使用については、必ず獣医師に相談してから与えることをおすすめします。
Q6. 知育玩具はどのように選べばよいですか?
A. 知育玩具は、猫がフードやおやつを工夫して取り出すことで脳に刺激を与えるおもちゃです。初心者には「キャティーマン にゃんこのでるでる自飯器」のように、ドラムを回すとフードが出てくる簡単なタイプがおすすめです。慣れてきたら「Catit フードツリー」のような複数段階に分かれた構造のものに挑戦できます。猫が使い方を理解できるよう、最初は飼い主が使い方を見せてあげることが大切です。
Q7. 多頭飼いの場合、他の猫への影響はありますか?
A. 認知症の猫が他の猫に直接影響を与えることは少ないですが、夜鳴きや異常行動により他の猫もストレスを感じる可能性があります。認知症の猫には安心できる専用スペースを用意し、他の猫との接触を適度に制限することが大切です。また、健康な猫たちにも十分な注意を払い、ストレスがたまらないよう配慮しましょう。
Q8. 動物病院での診断はどのように行われますか?
A. 認知症の診断は、まず他の疾患との鑑別が重要です。甲状腺機能亢進症、高血圧症、関節炎、腎臓病、脳腫瘍などの検査を行い、これらの病気が除外診断された後に認知症の可能性が検討されます。血液検査や必要に応じてCTやMRI検査が行われることもありますが、高齢猫への全身麻酔のリスクも考慮して慎重に判断されます。
Q9. 家族が認知症の猫の世話で疲れてしまった場合は?
A. 認知症の猫の世話は長期間にわたり、家族にとって大きな負担となることがあります。一人で抱え込まず、家族で協力したり、動物病院に相談したりすることが大切です。症状が重い場合は、獣医師と相談して適切な薬物療法を検討し、飼い主の負担を軽減する方法を見つけることも重要です。猫も飼い主も無理をしないことが、お互いにとって最善の結果につながります。
まとめ

シニア猫の認知症は、15歳以上の猫の半数程度に見られる決して珍しくない疾患です。夜鳴きや徘徊、トイレの失敗などの症状が現れた場合でも、適切な対処により猫と飼い主の生活の質を向上させることが可能です。
認知症を完全に予防することは困難ですが、脳に適度な刺激を与える環境づくり、抗酸化物質を含む食事やサプリメントの活用、ストレスフリーな生活環境の整備により、発症を遅らせたり症状を軽減したりすることができます。
コミュニケーションを大切にし、適度な運動と脳トレーニングを継続的に行うことで、愛猫の認知機能を維持できます。また、認知症は他の疾患と症状が類似することがあるため、気になる変化があれば早めに獣医師に相談することが大切です。
愛猫の変化を見逃さず、適切なケアと治療により、認知症と上手に付き合いながら、猫との大切な時間を穏やかに過ごしていきましょう。
参考文献・参照記事リスト
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。
動物病院・獣医師監修記事
- 行徳どうぶつ病院「猫の認知症について」(2024年11月)
獣医師 陶山 雄一郎 監修
https://animal-chiba.jp/archives/blog/猫の認知症について - もみの木動物病院「シニアの犬や猫の認知症について」(2023年10月)
獣医師監修による認知症の症状と対処法
https://www.dr-ozawa.jp/blog/429 - 井本動物病院「認知症外来」
認知症の診断と治療に関する専門的な情報
https://imoto-ahp.com/dementia-new.htm
獣医師執筆・監修記事
- EPARKペットライフ「猫の認知症(痴呆症)の症状と原因、治療方法とは?」(2024年9月)
獣医師 岩尾 琢 監修
https://petlife.asia/column/article68/ - アニコム損保「猫も認知症になる?認知症になった時の対処法を解説!」(2023年3月)
獣医師監修による認知症の基礎知識
https://www.anicom-sompo.co.jp/nekonoshiori/8604.html - ねこのきもちWEB MAGAZINE「『いつもと違う』は要注意!猫の認知症の際立った5つの特徴とは…」(2018年8月)
ねこのきもち獣医師相談室の獣医師監修
https://cat.benesse.ne.jp/lovecat/content/?id=21860
専門機関・研究機関の情報
- ヒルズペット「猫の認知症の症状とは?よく見られる7つの変化とケアについて」(2025年3月)
獣医学的根拠に基づく認知症の症状と対処法
https://www.hills.co.jp/cat-care/healthcare/cat-dementia-in-seniors - ウィズペティ「【獣医師監修】シニアの健康維持について『猫用・毎日一緒 EPA&DHA』」
獣医師 後藤 監修による栄養療法の解説
https://withpety.com/interview/interview8.html
サプリメント・製品情報
- ウィズペティ公式サイト「毎日一緒【公式ウィズペティ】猫用認知症ケアサプリ」
認知症予防サプリメントの詳細情報
https://withpety.com/products/nekoissho/ - 本町獣医科サポート「第7回 認知機能低下犬へのEPA・DHA給与効果」
オメガ3脂肪酸の認知機能への効果に関する研究
https://www.pet-honmachi.vet/information/87.html
保険会社・信頼できる情報源
- PS保険(ペットメディカルサポート)「猫の認知症の症状と原因、治療法について」(2024年5月)
獣医師および動物看護師監修
https://pshoken.co.jp/note_cat/disease_cat/case027.html - ペピイ(PEPPY)「ネコに認知症はある?疑われる行動や飼い主の対応方法を解説」(2024年3月)
獣医師監修による認知症の対応方法
https://www.peppynet.com/library/archive/detail/905
知育玩具・製品情報
- マイベスト「猫用おもちゃのおすすめ人気ランキング【2025年】」
日本獣医生命科学大学 助教監修
https://my-best.com/1471 - LDK公式「猫用おもちゃのおすすめランキング21選」(2025年3月)
知育玩具の比較検証結果
https://360life.shinyusha.co.jp/articles/-/34573 - げぼくの教科書「獣医師おすすめの安全で人気な猫用おもちゃ7選」(2023年2月)
獣医師による知育玩具の推奨情報
https://nyantos.com/cat_toys
その他の専門情報
- NPO法人ねこほーむ「猫も認知症になる?自宅でのケアや予防法を解説」(2023年10月)
認知症のケアと予防法
https://neko-home.or.jp/article/cat-dementia/ - ユニ・チャーム ペット「老猫の夜鳴きが続く…もしかして猫の認知症?」
獣医師 村田香織 監修
https://jp.unicharmpet.com/ja/web-magazine/cat-000040.html
注意事項
- 本記事の情報は、上記の信頼できる情報源に基づいて作成されていますが、個々の猫の状態や症状については、必ず獣医師にご相談ください。
- 医療情報や治療法に関する内容は、獣医師の指導のもとで実施することを強く推奨します。
- サプリメントや知育玩具の使用についても、獣医師にご相談の上で適切に選択してください。



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