はじめに
「うちの猫が食欲がなくて心配…」「最近元気がないけど大丈夫かしら?」そんな悩みを抱えている飼い主さんは多いのではないでしょうか。
猫の脂肪肝(肝リピドーシス)は、食欲不振が数日続くだけで発症する可能性がある深刻な病気です。特に肥満気味の猫では、わずか3〜7日間の絶食状態で命に関わる状態になることもあります。しかし、早期発見と適切な治療により、80〜85%の猫が回復するという報告もあるため、正しい知識を持つことが愛猫の命を救う鍵となります。
この記事では、脂肪肝の症状の見分け方から予防法、治療方法、そして家庭でできるケアまで、飼い主さんが知っておくべき重要な情報を獣医師監修のもとでお伝えします。
猫の脂肪肝(肝リピドーシス)とは?症状と見分け方

脂肪肝の病態メカニズムと危険性
猫の脂肪肝(肝リピドーシス)とは、肝臓の細胞に脂肪が過剰に蓄積することで肝機能が低下する病気です。猫が食欲不振や絶食状態になると、体はエネルギーを確保するために体内の脂肪を分解してエネルギー源にしようとします。
しかし、猫は他の動物と比べて脂肪をエネルギーに変換する能力が限られているため、肝臓に運ばれた大量の脂肪酸を適切に処理しきれません。その結果、肝細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積し、肝細胞が腫れて胆汁の流れが妨げられ、深刻な肝機能障害を引き起こします。
特に肥満猫では、絶食時に分解される脂肪の量が多く、インスリン抵抗性も示していることが多いため、この疾患にかかりやすくなっています。脂肪肝は猫の肝臓疾患の中で最も多く見られる病気であり、無治療では致死的な状態となる危険性があります。
症状の段階別チェックリスト
脂肪肝の症状は段階的に進行するため、早期発見のために以下の症状を見逃さないことが重要です。
初期症状(食欲不振開始から数日)
- 食欲不振または食欲廃絶
- 元気がない、活動量の減少
- 体重の減少
- 嘔吐や流涎(よだれ)
進行期症状(1週間以降)
- 黄疸(白目や歯茎、皮膚が黄色くなる)
- 濃いオレンジ色の尿
- 脱水症状
- 下痢または便秘
重篤期症状(末期)
- 意識障害や痙攣
- 呼吸困難
- 体温低下
- 昏睡状態
緊急受診が必要な症状
- 3日以上の完全な食欲廃絶
- 黄疸の出現
- 嘔吐が止まらない
- ぐったりして動かない
- 意識がもうろうとしている
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期段階では明確な症状が現れにくいことが特徴です。そのため、普段から愛猫の食事量や活動量を注意深く観察し、少しでも異変を感じたら早めに獣医師に相談することが大切です。
原因とリスク要因を知って予防に活かそう

脂肪肝の主な原因とメカニズム
猫の脂肪肝の直接的な原因は、食欲不振による栄養不良です。猫が2〜3日間食事を摂らない状態が続くと、体内のエネルギー不足を補うために脂肪組織が分解され、大量の脂肪酸が肝臓に運ばれます。猫は肉食動物として特化した代謝システムを持っているため、この急激な脂肪の動員に対応しきれず、肝臓に脂肪が蓄積してしまいます。
食欲不振を引き起こす主な原因
- 膵炎、胆管炎、腸炎(三臓器炎として同時発症することが多い)
- 糖尿病や甲状腺機能亢進症
→【糖尿病についてはこちら】
→【甲状腺機能亢進症についてはこちら】 - 慢性腎疾患
→【慢性腎不全についてはこちら】 - 腫瘍(リンパ腫など)
- ストレス(引越し、新しいペットの導入、環境変化)
- 急激なフードの変更
- 歯科疾患による食事困難
なりやすい猫の特徴
- 肥満またはやや肥満体型の猫
- 中年齢以降の猫(6歳以上)
- 不妊手術済みの猫
- 室内飼いでドライフードを主食とする猫
- メス猫(発症例の6割以上がメス猫との報告)
- 複数頭飼育でストレスを感じやすい猫
日常生活でできる予防策
脂肪肝の予防で最も重要なのは、食欲不振を起こさせないことと、起こった場合の早期対応です。
肥満予防と適正体重の維持: 肥満は脂肪肝の最大のリスク要因です。理想的な体重維持のためには、定期的な体重測定と適切な食事管理が必要です。ダイエットが必要な場合は、急激な食事制限は避け、獣医師の指導のもとで週に0.5〜2%の体重減少を目標に、緊急に進めることが大切です。フードを変更する際は、元のフードと混ぜながら1〜2週間かけて徐々に切り替えましょう。
ストレス管理と環境整備
- 引越しや模様替えは段階的に行う
- 新しいペットの導入は慎重に時間をかける
- 隠れられる安全な場所を複数用意する
- 食事と水飲み場は静かで落ち着ける場所に設置
- 多頭飼育の場合は、それぞれの猫に個別の食事スペースを確保
- 定期的な生活リズムを維持する
基礎疾患の早期発見と管理: 年に1〜2回の健康診断で血液検査を受け、膵炎や腎疾患などの基礎疾患を早期発見することが重要です。特に6歳以上の猫では、定期的な健康チェックを心がけましょう。歯科疾患も食欲不振の原因となるため、口腔内の健康維持も大切です。
猫が24時間食事を摂らなければ明らかに異常な状態です。普段の食事量や食べ方を把握し、少しでも食欲に変化があれば様子を見ずに獣医師に相談することが、脂肪肝の予防における最も重要なポイントです。

診断と治療法-早期発見が回復の鍵

診断に必要な検査と費用
脂肪肝の診断には複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。早期診断が治療成功の鍵となるため、症状がある場合は迅速な検査が必要です。
主な検査項目
- 血液一般検査:貧血の有無や炎症反応を確認
- 血液生化学検査:肝酵素(ALT、AST、ALP)、ビリルビン値、総たんぱく質の測定
- 血液凝固系検査:Fib値(フィブリノーゲン値)で肝機能を評価
- レントゲン検査:肝腫大の有無を確認
- 超音波検査:肝臓の形態や内部構造を詳細に観察
- 肝細胞診または肝生検:超音波ガイド下で肝細胞を採取し、脂肪変性を確認
検査費用の目安: 血液検査(一般+生化学)で約8,000〜15,000円、画像検査(レントゲン+エコー)で約10,000〜20,000円程度が一般的です。肝細胞診が必要な場合は追加で5,000〜10,000円程度かかります。初期の診断費用として合計3〜5万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
治療方法と生存率
脂肪肝の治療は積極的な栄養療法が中心となり、早期治療開始が極めて重要です。
主な治療法: 脱水や電解質異常の補正のため、静脈点滴による輸液療法を行います。感染予防として抗生物質の投与も併用されます。制吐剤や制酸剤により、治療初期に起こりやすい嘔吐や流涎をコントロールします。
栄養療法(最重要): 自発的な食事摂取が困難なため、栄養チューブを用いた強制給餌が必要です。経鼻チューブは麻酔なしで設置可能ですが、管が細く流動食のみの使用となります。状態が安定したら食道チューブ(PEGチューブ)を設置し、より太い管で効率的な栄養補給を行います。
使用される療法食には、高蛋白流動食(クリニケアR)や高蛋白栄養食(退院サポートR)などがあります。これらは動物病院での処方が必要で、家庭での継続的な給餌に適した設計となっています。
治療期間と生存率: 無治療の場合はほぼ100%致命的となりますが、早期に適切な治療を開始した場合、80〜85%の回復率が報告されています。積極的な給餌により致死率を半数以下に下げることが可能です。治療期間は約1ヶ月程度で、自発的な食事摂取ができるようになるまで継続的なケアが必要です。治療費は入院費(1日5,000〜7,000円)、チューブ設置費用、継続的な検査費用を含めて、総額20〜50万円程度かかることが多いです。
進行した状態での治療開始や、基礎疾患が重篤な場合は予後が厳しくなるため、食欲不振の段階での早期受診が何より重要です。
家庭でできるケアと食事管理のポイント

治療中の家庭ケア方法
脂肪肝の治療では、病院での初期治療後、家庭での継続的なケアが回復の鍵となります。飼い主さんの根気強いサポートが必要不可欠です。
栄養チューブを使った給餌の基本
- 給餌前に必ずチューブの位置と状態を確認する
- 流動食は体温程度に温めてから与える
- 1回の給餌量は猫の体調に合わせて調整し、無理をしない
- 給餌後はチューブ内を少量の水でフラッシュして詰まりを防ぐ
- チューブ周囲の皮膚を清潔に保ち、感染予防に努める
日常観察のポイント
- 体重の変化(可能であれば毎日測定)
- 食欲の回復度合い
- 嘔吐や下痢の有無
- 黄疸の改善状況
- 元気度や活動量の変化
- 排尿・排便の状態
強制給餌は猫にとってストレスとなるため、できるだけ穏やかな環境で行い、給餌後は猫をリラックスさせてあげることが大切です。獣医師の指示に従い、定期的な診察を受けながら治療を進めましょう。
回復期〜予防のための食事管理
回復期の食事の進め方: 自発的な食事摂取が始まったら、少量ずつ頻回に与えることから始めます。消化の良い高品質なタンパク質を含む食事を選び、一度に大量に与えず、1日の必要量を4〜6回に分けて給餌します。食事の嗜好性を高めるため、わずかに温めたり、好みの香りをつけたりする工夫も効果的です。
長期管理と再発防止
- 定期的な血液検査による肝機能のモニタリング
- 適正体重の維持(肥満の予防・改善)
- ストレスの少ない環境づくり
- 基礎疾患の継続治療
- 年2回以上の健康診断受診
- 食欲不振が24時間続いた場合の即座の受診
完全回復後も、脂肪肝を経験した猫は再発のリスクが高いため、生涯にわたる注意深い健康管理が必要です。普段から猫の様子を観察し、少しでも異変があれば早めに獣医師に相談する習慣をつけましょう。
よくある質問と回答
Q1: 脂肪肝の治療費はどのくらいかかりますか?
A: 治療費は病状の重さや治療期間により大きく異なりますが、初期診断費用として3〜5万円、入院治療費として1日5,000〜7,000円、栄養チューブ設置や継続的な検査費用を含めて、総額20〜50万円程度が一般的な目安です。早期発見・治療により治療期間を短縮できれば、費用も抑えることができます。
Q2: 脂肪肝になった猫の生存率はどの程度ですか?
A: 無治療の場合はほぼ100%致命的となりますが、食欲不振を起こす原因に対処ができ、早期に適切な治療を行えば80〜85%は回復するとの報告があります。積極的な給餌により致死率を半数以下に下げることが可能です。ただし、進行した状態での治療開始では予後が厳しくなるため、早期受診が極めて重要です。
Q3: 家で強制給餌をする際の注意点は?
A: 強制給餌は猫にとって大きなストレスとなるため、無理は禁物です。シリンジでの口への強制投与は誤嚥のリスクがあるため避け、獣医師の指導のもとで栄養チューブを使用することが安全です。給餌は穏やかな環境で行い、給餌後は猫をリラックスさせてあげることが大切です。
Q4: 脂肪肝の予防のために普段気をつけることは?
A: 最も重要なのは適正体重の維持と食欲不振の早期発見です。定期的な体重測定、年2回以上の健康診断、ストレスの少ない環境づくり、急激なフード変更の回避などが効果的です。また、猫が24時間食事を摂らない状態は異常なので、すぐに獣医師に相談してください。
Q5: 回復後の再発リスクはありますか?
A: 脂肪肝を経験した猫は再発のリスクが高いため、生涯にわたる注意深い健康管理が必要です。定期的な血液検査によるモニタリング、適正体重の維持、ストレス管理、基礎疾患の継続治療などが重要です。食欲不振が24時間続いた場合は即座に受診することが再発防止の鍵となります。
Q6: 療法食は必ず使わなければいけませんか?
A: 必ずしも療法食が必要というわけではありませんが、肝臓に負担をかけない栄養バランスに調整された療法食は回復をサポートする効果が期待できます。
まとめ

猫の脂肪肝(肝リピドーシス)は、食欲不振が数日続くだけで発症する可能性がある深刻な病気ですが、正しい知識と早期対応により多くの猫が回復できる疾患でもあります。
最も重要なポイントは早期発見です。猫が24時間食事を摂らない状態は明らかに異常であり、特に肥満気味の猫では3〜7日間の絶食で命に関わる状態になる可能性があります。黄疸、元気消失、嘔吐などの症状が見られたら、迷わず動物病院を受診してください。
予防においては、適正体重の維持、ストレス管理、基礎疾患の早期発見が鍵となります。年2回以上の健康診断を受け、普段から愛猫の食事量や行動を注意深く観察することで、多くの場合予防が可能です。
治療は積極的な栄養療法が中心となり、家庭での継続的なケアが回復への道筋となります。早期に適切な治療を開始すれば80〜85%という高い回復率が期待できますが、進行してからでは治療が困難になるため、「様子を見る」のではなく「早めの受診」を心がけることが何より大切です。
愛猫の健康を守るため、この記事の情報を参考に日頃からの観察と予防を実践し、気になることがあれば遠慮なく獣医師に相談してください。
参考文献・参照記事リスト
獣医学専門サイト・病院情報
- 次郎丸動物病院「猫の脂肪肝(肝リピドーシス)の症状と原因、治療について|獣医師が解説」 https://jiroumaru-ah.com/case/case-gastroenterology/entry-100.html
- 亀戸動物総合病院「肝リピドーシスの猫の1例」 https://kameidovet.com/treatment/specialities0103/
- 立川動物病院「猫の肝リピドーシス」 https://www.tachikawa-central-vet.com/2016/06/09/猫の肝リピドーシス/
- 壱岐動物病院「肝リピドーシス」 https://1013.jp/肝リピドーシス/
獣医学的専門情報
- Purina Institute「猫の肝リピドーシス」 https://www.purinainstitute.com/ja/centresquare/therapeutic-nutrition/feline-hepatic-lipidosis
- FPCペット保険「肝リピドーシス」 https://www.fpc-pet.co.jp/cat/disease/287
- 子猫のへや「猫の脂肪肝(肝リピドーシス)~症状・原因から治療・予防法まで」 https://www.konekono-heya.com/byouki/syoukaki/kansui/shiboukan.html
- Toletta Cats「肝リピドーシス | 獣医師監修 ねこ病気事典」 https://jp.tolettacat.com/blogs/toletta-blog/hepatic-lipidosis
療法食関連情報
- ロイヤルカナン公式サイト「肝臓サポート ドライ – 猫用食事療法食」 https://www.royalcanin.com/jp/cats/products/vet-products/hepatic-4012
- ヒルズペット「病気の猫のために開発された獣医師専用の特別療法食」 https://www.hills.co.jp/prescription-diet/cat-food
- 共立製薬株式会社「かかりつけ動物病院を登録しよう」(ロイヤルカナン食事療法食購入ガイド) https://information.ks-pet-health-link.jp/
動物保険・疾病情報
- アニコム損害保険「肝リピドーシス <猫> | みんなのどうぶつ病気大百科」 https://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/1109
- うちの子おうちの医療事典「脂肪肝 [猫]|【獣医師監修】」 https://uchihap-vetnote.ipet-ins.com/cat/diseases/hepatic-lipidosis
- EPARKペットライフ「猫の脂肪肝(肝リピドーシス)とは」 https://petlife.asia/column/cat/cat-health92.html
- ねこちゃんホンポ「猫の脂肪肝(肝リピドーシス)についての症状や原因、治療と予防法」 https://nekochan.jp/disease/article/4214
- ペトリィ「猫の肝不全。余命に関わる症状や、その原因、治療法について解説」 https://petlly.jp/column/cat-disease/cats-liver-failure/
- ウィズペティ「猫の肝リピドーシス【獣医師執筆】猫の病気辞典」 https://withpety.com/dictionary/kiji/142.html
学術的参考文献
- Feline Hepatic Lipidosis. C Valtolina and R P Favier. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2017.
- Prognostic markers in feline hepatic lipidosis: a retrospective study of 71 cats. S Kuzi et al. Vet Rec. 2017.
- Management of obesity in cats. K M Hoelmkjaer and C R Bjornvad. Vet Med (Auckl). 2014.
注意事項: 本記事の情報は獣医学的な知識に基づいて作成されていますが、愛猫の健康に関する最終的な判断は必ず獣医師にご相談ください。症状や治療法には個体差があるため、記事の内容を参考にしつつも、専門医の診断と指導を受けることが重要です。



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