猫の遺伝性心筋症の特徴と予防法【獣医師が解説】

健康・医療

はじめに

猫の心筋症は、心臓の筋肉に異常が生じる病気です。中でも遺伝が原因で発症する心筋症は、特定の猫種に多く見られます。早期発見が難しく、突然死のリスクもあるため、飼い主さんは病気の特徴をよく理解しておく必要があります。

本記事では、獣医師の視点から、猫の遺伝性心筋症の種類や症状、診断方法、治療法、そして予防法について詳しく解説します。愛猫の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。

本動画は https://no-lang.com によりCC-BY-SAライセンスの下で作成されました。

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猫の遺伝性心筋症の種類と特徴

(↑人の心臓のイラストですが、基本的な構造は猫も同じです)

肥大型心筋症(HCM)

肥大型心筋症は、猫の遺伝性心筋症の中で最も多く見られる疾患です。心臓の筋肉が異常に肥厚することが特徴で、特に左心室の壁が厚くなります。この肥厚により、心臓の拡張機能が低下し、心臓内の血流が悪化します。

HCMは、以下のような猫種に多く見られます。

  • メインクーン
  • ラグドール
  • ペルシャ
  • ブリティッシュショートヘア
  • スフィンクス

遺伝性のHCMは、常染色体優性遺伝形式で遺伝すると考えられています。つまり、片方の親からHCMの遺伝子を受け継ぐだけで、発症する可能性があるということです。

拡張型心筋症(DCM)

拡張型心筋症は、心臓の筋肉が薄くなり、心臓の拡張機能が低下する疾患です。心臓が大きく拡張し、ポンプ機能が低下することが特徴です。

DCMは、過去にはタウリン欠乏が主な原因と考えられていましたが、現在ではキャットフードへのタウリン添加により、タウリン欠乏によるDCMは減少しています。しかし、遺伝性のDCMも存在し、以下のような猫種で報告されています。

  • アビシニアン
  • シャム
  • ヒマラヤン

遺伝性DCMの遺伝形式は、常染色体劣性遺伝であると考えられています。つまり、両親からDCMの遺伝子を受け継いだ場合に、発症する可能性が高いということです。

拘束型心筋症(RCM)

拘束型心筋症は、心臓の筋肉が硬くなり、心臓の拡張機能が低下する疾患です。心臓が十分に拡張できないため、心臓内への血液の流入が悪化します。

RCMは比較的稀な疾患で、特定の猫種との関連性は明らかではありません。遺伝性RCMの存在は示唆されていますが、詳細な遺伝形式は解明されていません。
【心臓病の種類についてはこちら】

遺伝性心筋症の特徴

遺伝性心筋症は、以下のような特徴を持っています。

  • 若齢から中年齢で発症することが多い
  • 雄猫に多く見られる傾向がある
  • 症状が現れにくく、突然死のリスクがある
  • 心雑音や不整脈を伴うことがある

遺伝性心筋症は、早期発見が難しい疾患ですが、好発する猫種では、遺伝子検査や定期的な心臓検査により、早期発見と管理が可能になってきています。遺伝性心筋症を持つ猫の繁殖は控えるべきですが、適切な治療とケアにより、長期的な管理が可能です。獣医師と相談し、愛猫に合った管理方法を検討することが大切です。

遺伝性心筋症の症状と診断方法

遺伝性心筋症の症状

遺伝性心筋症の初期段階では、明らかな症状が現れないことが多いです。病気が進行するにつれ、以下のような症状が見られるようになります。

  • 食欲不振や元気消失
  • 呼吸速拍や呼吸困難
  • 運動不耐性や後肢の脱力感
  • 心雑音や不整脈
  • 失神発作や突然死
  • 開口呼吸

これらの症状は、心不全や血栓塞栓症などの合併症によって引き起こされます。飼い主が普段から愛猫の様子をよく観察し、異変に気づくことが重要です。

遺伝性心筋症の診断方法

遺伝性心筋症の診断には、以下のような検査が用いられます。

  1. 聴診
    • 心雑音や不整脈の有無を確認します。
    • 心音の変化から、心筋症の存在を疑います。
  2. 心電図検査
    • 心臓の電気的活動を記録し、不整脈の有無や種類を評価します。
    • 心筋症に特徴的な波形変化を捉えることができます。
  3. レントゲン検査
    • 心臓の大きさや形状、肺の状態を評価します。
    • 心拡大や肺水腫の有無を確認します。
  4. 心臓超音波検査(心エコー検査)
    • 心臓の構造や機能を詳細に評価できる検査です。
    • 心筋の肥厚や心室の拡張、心機能の低下などを捉えることができます。
    • 遺伝性心筋症の確定診断に欠かせない検査です。
  5. 遺伝子検査
    • 一部の遺伝性心筋症では、原因となる遺伝子変異を特定できます。
    • 発症前の猫や、無症状のキャリアを検出することができます。
    • 繁殖に用いる猫の遺伝子検査は、遺伝性心筋症の予防に役立ちます。

これらの検査を組み合わせることで、遺伝性心筋症の診断と重症度評価が可能となります。

早期発見と定期検査の重要性

遺伝性心筋症は、早期発見が難しい疾患ですが、定期的な検査により、早期診断と適切な管理が可能となります。特に、遺伝性心筋症の好発種を飼育している場合は、以下のような対応が推奨されます。

  • 若齢期からの定期的な心臓検査(聴診、心エコー検査など)
  • 遺伝子検査による発症リスクの評価
  • 繁殖に用いる猫の遺伝子検査と心臓検査

早期発見と適切な治療により、遺伝性心筋症の猫のQOL向上と生存期間の延長が期待できます。飼い主と獣医師が協力し、愛猫の健康管理に取り組むことが大切です。

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遺伝性心筋症の治療法

薬物療法

遺伝性心筋症は、残念ながら完治することはありませんが、適切な治療とケアにより、症状の緩和とQOLの向上が期待できます。治療法は、心筋症のタイプや重症度、合併症の有無などに応じて、個々の猫に合わせて決定されます。薬物療法は、遺伝性心筋症の治療の中心となります。以下のような薬剤が使用されます。

  1. 陽性変力薬(ピモベンダン)等
    • 心臓の収縮力を高め、ポンプ機能を改善します。
    • 心不全の症状緩和に効果的です。
  2. 利尿薬(フロセミド、スピロノラクトン)等
    • 体内の余分な水分を排出し、心臓の負担を軽減します。
    • 肺水腫や胸水、腹水の改善に役立ちます。
  3. ACE阻害薬(エナラプリル、ベナゼプリル)等
    • 血管を拡張し、心臓の前後負荷を軽減します。
    • 心不全の進行を遅らせる効果が期待できます。
  4. β遮断薬(アテノロール、カルベジロール)等
    • 心拍数を下げ、心臓の酸素需要を減らします。
    • 不整脈の予防にも効果的です。
  5. 抗血小板薬(クロピドグレル)
    • 血栓形成を予防し、血栓塞栓症のリスクを下げます。
    • 特に、肥大型心筋症では重要な治療薬です。

これらの薬剤は、単独または併用して使用されます。

食事療法

遺伝性心筋症の猫には、以下のような食事療法が推奨されます。

  • タウリン添加食の給与
    • タウリンは、心筋の健康維持に重要な栄養素です。
    • タウリン添加食は、拡張型心筋症の予防に役立ちます。
  • 減塩食の給与
    • 塩分の過剰摂取は、体内の水分貯留を招き、心臓の負担を増やします。
    • 減塩食は、心不全の症状管理に効果的です。
  • 高品質なタンパク質の提供
    • 良質なタンパク質は、心筋の維持に欠かせません。
    • 適度なタンパク質摂取は、心機能の維持に役立ちます。

獣医師と相談し、愛猫の状態に合わせた食事プランを立てることが大切です。

運動制限と環境調整

遺伝性心筋症の猫には、過度な運動は控えるべきですが、適度な運動は必要です。獣医師と相談し、愛猫の状態に合わせた運動量を設定しましょう。また、ストレスは心臓の負担を増やすため、ストレスの少ない環境づくりが大切です。猫が安心してくつろげる空間を用意し、飼い主とのスキンシップも大切にしましょう。

定期的なモニタリング

遺伝性心筋症の管理には、定期的なモニタリングが欠かせません。以下のような検査や観察を行います。

  • 身体検査(聴診、体重測定など)
  • 血液検査(心臓バイオマーカー、電解質など)
  • 画像検査(レントゲン、心エコー検査など)
  • 飼い主による日常の観察(呼吸状態、食欲、活動性など)

定期的なモニタリングにより、病状の変化を早期に発見し、治療方針の調整につなげることができます。遺伝性心筋症の治療は、獣医師と飼い主が協力して、長期的に取り組むことが大切です。適切な治療とケアにより、愛猫のQOLを維持し、できる限り長く一緒に過ごせるよう努めましょう。

遺伝性心筋症の予防法

遺伝子検査の活用

一部の遺伝性心筋症では、原因となる遺伝子変異が特定されています。遺伝子検査により、以下のようなことが可能となります。

  • 発症前の猫のリスク評価
  • 無症状のキャリア(保因者)の検出
  • 繁殖における遺伝性心筋症の予防

特に、繁殖に用いる猫の遺伝子検査は、遺伝性心筋症の予防に大きく役立ちます。遺伝子検査の結果を踏まえ、適切な繁殖計画を立てることが重要です。

定期的な健康診断

遺伝性心筋症の早期発見は、予防的管理において重要な意味を持ちます。定期的な健康診断により、以下のようなメリットがあります。

  • 心筋症の早期発見と早期治療
  • 無症状の段階での管理開始
  • 合併症の予防とQOLの維持

特に、遺伝性心筋症の好発種を飼育している場合は、若齢期からの定期的な心臓検査が推奨されます。

適切な食事管理

適切な食事管理は、遺伝性心筋症の予防に役立ちます。以下のような点に注意しましょう。

  • タウリン添加食の給与(拡張型心筋症の予防)
  • 適度な塩分制限(心不全の予防)
  • 良質なタンパク質の提供(心筋の維持)
  • 肥満の予防(心臓への負担軽減)

獣医師と相談し、愛猫の状態に合わせた食事プランを立てることが大切です。

ストレス管理

ストレスは、心臓の負担を増加させ、遺伝性心筋症の発症リスクを高める可能性があります。以下のようなストレス管理を心がけましょう。

愛猫がリラックスできる環境づくりに努めることが重要です。

飼い主の観察力

飼い主が普段から愛猫の様子をよく観察し、異変に気づくことが、遺伝性心筋症の早期発見と予防的管理に役立ちます。以下のような変化に注意しましょう。

  • 開口呼吸(速い、荒い、努力性の呼吸など)
  • 活動性の低下や運動不耐性
  • 食欲の変化
  • 体重の変化(増加または減少)

わずかな変化でも、獣医師に相談することが大切です。

遺伝性心筋症の予防は、遺伝子検査、定期健診、適切な食事管理、ストレス管理、飼い主の観察力など、多角的なアプローチが必要です。飼い主と獣医師が協力し、愛猫の健康を守るための予防的管理に取り組むことが重要です。

まとめ

猫の遺伝性心筋症は、早期発見が難しく、治療法も限られている難しい病気です。飼い主さんは、愛猫の日頃の様子をよく観察し、定期的な健康診断を欠かさないようにしましょう。病気を予防することは難しいですが、適切な食事管理とストレスを避けることで、発症リスクを下げることができます。そして、万が一愛猫が心筋症と診断されてしまっても、飼い主さんが獣医師と協力してQOLを重視したケアを行えば、愛猫との大切な時間を長く過ごすことができるはずです。

【この記事の監修者】
窪木未津子 獣医師 / 富士見台どうぶつ病院 院長

群馬県出身。ヤマザキ動物専門学校卒業後、麻布大学獣医学部を修了。埼玉県と東京都の動物病院で勤務した経験を持つ。

獣医師・動物看護士・トリミング・ドッグトレーナーの資格を有し、あらゆる面でペットとその飼い主をサポート。生活の悩みから病気やケガに至るまで、幅広い相談に応じる。

過去に飼っていた動物として、ツキノワグマ、リスザル、ニオイカメ、魚、鳥、フクロモモンガ、ハムスター、シマリスなど、多種多様な動物たちと共に過ごしてきました。

院長を務める動物病院「富士見台どうぶつ病院」

住所:東京都中野区上鷺宮4-15-6
電話番号:03-3825-1111
診療時間:午前9:00〜12:00 午後16:00〜19:00
休診日:木曜日
診療対象:犬、猫、うさぎ、ハムスター、フェレット(その他の種類はお問合せください)
※お電話でのご予約は受付けておりません。

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